<この記事を読んでわかること>
・嚥下障害に関わる言語聴覚士、看護師、医師の役割と連携方法
・家族や介護者が知っておくべき嚥下障害者へのサポートのポイント
・チームアプローチによる摂食嚥下リハビリの効果が向上した事例
嚥下障害に対するリハビリテーションでは医師や言語聴覚士、看護師など多職種によるチームアプローチが重要です。 この記事ではそれぞれの専門家がどのような役割を持ち、どのように連携しているのかを解説すると共に、家族や介護者が知っておくべきサポートのポイントやチームアプローチによってリハビリの効果が見られた事例もご紹介します。
言語聴覚士、看護師、医師の役割と連携方法

嚥下障害のリハビリテーションでは、様々な知識や技術をもった専門のスタッフがお互い協力してアプローチをすることが重要です。
まずは嚥下障害に主に関わる言語聴覚士(ST)や看護師、医師の役割についてご紹介します。
- 言語聴覚士:
医師と連携しながら患者様の飲み込みや咀嚼など嚥下機能の状態を詳しく評価し、障害の程度や特徴を理解した上で今後の治療方針を話し合います。
決定した方針に基づいて言語聴覚士は摂食嚥下リハビリテーションを実施し、嚥下機能の維持や改善を目指して支援していきます。
また必要に応じて食事形態を調整することもあります。 - 看護師:
摂食や嚥下状態の評価を元に、誤嚥性肺炎や窒息、栄養不足や脱水といったリスクを防ぐために適切で安全な看護を行います。
特に日常の食事介助中やベッドサイドでの観察や評価、家族へのアドバイスなど現場での実践的なサポートにも力を発揮しています。 - 医師:
嚥下障害の患者様に対する診療や検査(嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査など)を元に嚥下障害の診断や治療法について情報提供を行います。
また嚥下障害の患者様は誤嚥性肺炎や栄養不足などのリスクが高いため、医師は全身状態を管理し合併症の予防を行います。
そして医師をチームのリーダーとして定期的なカンファレンスを開催し、各専門職の情報を共有し治療方針を統括します。
家族や介護者が知っておくべきサポートのポイント
嚥下障害に対するリハビリテーションでは家族や介護者の役割も重要です。
ただし誤嚥のリスクも伴うために、サポートをする上で知っておくべきポイントについてご紹介します。
- 食事環境を整備する
食事をする際には患者様が安心して食事をできる環境を整えます。
例えば、注意が他に移ってしまわないようにテレビを消したり、食事に関係ないものは片付けたりするなど刺激を減らしましょう。 - 適切な姿勢を保持する
食事中の姿勢は嚥下機能に大きく影響します。
特に嚥下機能が低下してむせやすい場合は飲み込みやすい姿勢で食事できるよう、リクライニングシートやクッションなどを利用してサポートします。
基本的に食事中は、頚部を前屈させた位置に保持しておきましょう。 - 食べ物をよく噛むよう促す
よく噛むことは嚥下反射を高め、誤嚥の予防にもつながります。
必要に応じて「ゆっくり食べようね」「よく噛もうね」とやさしく声をかけ、焦らず食べられるようにサポートしましょう。 - 口腔ケアを行う
食事の後はうがいや歯磨きなどの口腔ケアを行いましょう。
口腔内を清潔に保つことで、誤嚥性肺炎の予防にもつながります。 - 情報を共有する
日常よく接する場面のある家族や介護者の方が患者様の普段の様子との違いに気づく事も多いです。
気になることや疑問などは医師や言語聴覚士などに相談し、情報を共有しておきましょう。
チームアプローチによるリハビリ効果の向上事例
嚥下障害に対するリハビリテーションでは医師や言語聴覚士、看護師などの多職種が連携するチームアプローチが非常に重要です。
ここではこのチームアプローチによりリハビリの効果を上げた事例についてご紹介します。
- 事例1: 高齢の誤嚥性肺炎を発症した患者様に対して、入院後早期から多職種での包括的な摂食嚥下リハビリテーションを開始することで、抗菌薬の使用日数が短縮し早期に経口摂取が再開できたという例があります。
- 事例2:
アンジェルマン症候群と診断された2歳の男児が摂食嚥下機能と運動機能の低下が見られ入院しました。
歯科医による摂食機能評価を通し医師や看護師、リハビリスタッフ、栄養士などの多職種チームが連携し食事形態の調整、摂食訓練、基本的動作訓練を実施しました。
その結果、3食の経口摂取が可能となり座位保持も改善されるなど、機能回復が確認された症例があります。
まとめ
摂食嚥下リハビリテーションでは言語聴覚士や看護師、医師、栄養士など多職種がカンファレンスなどを通して連携してアプローチを行うことが重要です。
その中で言語聴覚士は患者様の嚥下機能の評価や摂食嚥下リハビリテーションの実施、また看護師は実際の日常生活の中でのケアを中心に誤嚥性肺炎や窒息の予防など行っています。
そして医師は患者様の診断や治療方針の決定を行い、それぞれの情報を共有しながら包括的に嚥下障害の患者様をサポートしています。
専門家の情報を元に家族や介護者が環境の整備や姿勢の管理、口腔ケアなどを実施することは嚥下障害のある患者様をサポートする上で大切なポイントとなります。
病院などでは実際にチームアプローチをすることによって経口摂取までの期間を短縮したり、摂食機能を改善させたりする事例も挙げられています。
今後はさらに再生医療と従来の摂食嚥下リハビリテーションとの取り組みで、さらなる摂食嚥下機能の改善効果が期待できるかもしれません。
Q&A
- 嚥下機能のリハビリにはどんな職種が関わっていますか?
- 嚥下機能のリハビリでは医師、歯科医師、看護師、栄養士、言語聴覚士(ST)、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、歯科衛生士、介護士など様々な職種が関わっています。
それぞれが専門的な立場から連携し評価・訓練・食事指導などを行い、患者様の安全な食事や機能回復を支援します。 - 嚥下障害はリハビリで治りますか?
- 嚥下障害はリハビリを行うことで機能の改善や維持に効果があります。
嚥下機能が完全に治るかどうかは原因や重症度によりますが、早期からの適切な訓練や多職種の支援により安全に食事ができるようになるケースも多くあります。
<参照元>
(1):第6回 医師や言語聴覚士を中心に多職種で患者を支える嚥下チーム|米粉でやさしい嚥下食:https://komeko.ncgm.go.jp
(2):摂食嚥下リハビリテーション治療のためのチーム医療|J-Stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjrmc/58/1/58_58.41/_article/-char/ja/
(3):高齢者や軽度な嚥下障害のある方への食事方法のポイントは?|日医工株式会社:https://www.nichiiko.co.jp/medicine/swallow/swallow16.php
(3):高齢者や軽度な嚥下障害のある方への食事方法のポイントは?|日医工株式会社:https://www.nichiiko.co.jp/medicine/swallow/swallow16.php
(4):[第9回] チーム医療|医学書院:https://www.igaku-shoin.co.jp/paper/archive/y2022/3498_05
(5):チームアプローチにより運動機能と摂食機能が回復したアンジェルマン症候群の一症例|J-Stage:https://www.jstage.jst.go.jp/article/thpt/26/0/26_0_112/_article/-char/ja/